学生時代の研究について

Biology

投稿日:2023-06-11

最終更新日:2023-11-12

学生時代の研究について

はじめに

ぼくは大学院時代に生物学を専攻しており、そこで「体内時計」について研究していました。
特に生き物がもつ時計の中でも、約一日周期で刻を刻む、「概日時計」の研究です。
今回は、ぼくが学部と大学院で3年間研究して気づいたり感じたことを書いてみようと思います。

概日時計とは

概日時計は一日周期で生物の行動や代謝をコントロールする生理機能です。
当然ぼくら人間にも組み込まれていて、規則正しく朝起きて夜寝たり、お腹が空いたりするのはこの時計のおかげです。
概日時計の仕組みは見事で、仮に光などの外部の情報が全く入らない真っ暗闇の "個室" に個体を放り込んでも、約24時間周期で生活ができるのです。

なぜ概日時計に

少し話がそれますが、ぼくはずっと「生命とはなにか」が気になっていました。これをどんどん言い換えると、疑問はやがて「生命の起源」につながります。
現存するありとあらゆる生物は何億年におよぶ長い進化の歴史の末に今を生きていますが、これを逆行すると全ての生命の起源となる一個の生物にたどり着きます。(これを最終普遍共通祖先とかLast Universal Common Ancestorとか略してLUCAとか言ったりします。)
何億年前のこの生物を目の前に研究することは不可能ですが、現存する様々な生物に共通する事項を探し出すことはLUCAに迫る考え方ができます。
なぜなら現存する全ての生物が持っている性質はLUCAも持っていたに違いないと考えられるからです。

話を戻すと、これがぼくが概日時計の研究を選んだ理由です。
なんと概日時計は地球上のほとんどの生物に備わっているのです。
人以外にもネズミ、昆虫、植物、細胞一個で生きるバクテリアにまで、一日周期で時を刻むシステムを持っています。
しかも人間のように、その時計は自律的に周り、またその時計の針を調節する "リューズ" も持っています。

そのため、全生物に共通する概日時計の根本の機構を解き明かすことはLUCAが持っていた概日時計の仕組みを知ることに繋がるのです。

実際行っていた研究

詳しいことは秘匿義務によって言えませんが、概日時計のシステムの根本にあるとわかってきた "部品" を生物から抜いたり、逆に加えたりしたときにどんな振る舞いをするかを実験していました。

ハツカネズミやショウジョウバエというハエ、クラミドモナスという単細胞の植物を飼って色々実験したり、不死化させた培養細胞を顕微鏡で覗いて、その振る舞いをあーだこーだ言っていました。

大学の変遷

学部4年生や大学院の初期までは東京大学の研究室に属していましたが、大学院1年の途中でプチ事件が起こります。

教授の定年退職により研究室の規模が縮小し、ネズミが飼えなくなってしまったのです!
ネズミはぼくの研究の生命線だったため、別の拠り所を探す必要がありました。
幸いぼくの属していた研究室内グループの先生が名古屋大学のポストをゲットしたので、ぼくもそこに付いていくことにしました。
なので、大学院2年の夏から卒業までの半年間は名古屋に住んでいました。

社会人への決意

研究は楽しく、もし自分の研究がうまくいけばそれなりにすごいことだったので、博士進学も考えました。
しかし同時に、自分が好きなものは果たして未知なるものを自分の手で掘り進むことなのかという疑問を持ちました。

ぼくの生物学への興味のルーツは近所の本屋で書籍を立ち読みすることでした。
つまり、知識をどんどん得ていくことで、大学に進学した理由もそこにありました。
研究室に入り、分野の第一線にいる方たちと触れ合ったりする中で、「生命の起源」は当然誰もわかっていないこと、分野を細分化して深く追究していく研究の世界ではその謎はこの先当分解けないと気づいたこと、自分が好きなのは研究ではないわかったことで、アカデミアの世界に残ることは辞めました。
海外に飛び出す勇気がなかったり、生活の将来性が不安になったのもあります。

あれこれ悩んで、「知る」ためなら本や論文を読んでいさえすれば、自分の欲求は満たせると今は考えています。

現在は

とはいえ生物の神秘は未だ興味が大ありです。
これからも情報は仕入れていきますし、欲を言えば発信もしていきたいと思っています。
そういうモチベーションで現在行っているのがLittermateなのです。

新しいテーマを探すために自分で知識を取り入れることにも繋がるので、定期的に続けていきたいと思っています。

ゆ
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